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ニュー・シェオス案内書 -シヴァリング・アイルズの観光- ブレニス・アラリン 著 ニュー・シェオスは王国全体の料理と文化の中心、シヴァリング・アイルズの宝石として広く知られております。我らがシェオゴラス閣下の気まぐれによって造られ、この都はマッドゴッドの完璧な構想の手本となるものなのです。 ニュー・シェオスに初めて訪れた人はしばしば住民の暖かさ、寛大さ、様々な素晴らしいユーモアに感銘を受けることでしょう。訪れた人は両手を広げて歓迎され、ほとんどの方がニュー・シェオス家の一員になったかのような気持ちにさせられるのです。都での目を楽しませる眺望や耳をくすぐる音は新しく訪れた方を圧倒する程であり、この案内書は初めて訪れた人ができるだけ簡単に移動できることをお手伝いするためのものであります。 訪れた人は都が主に3つの地区に分かれていることに気付かれることでしょう: ブリス、クルーシブル、そして宮殿です。宮殿にはマニアとディメンシャを支配しておられる公爵様のお住まいだけでなく、シェオゴラス閣下の壮麗な王宮があります、それに対してブリスとクルーシブルには都に住む者の住居と商用の建物の大部分があります。 同じ都でも、ニュー・シェオスのブリスとクルーシブルは、それぞれ異なった体験をさせてくれることに気がつくことでしょう。ブリスの輝く手すりや金の道は、クルーシブルの素朴な建物や未舗装の通りとは全く対照的であります。騒がしい夜の娯楽やおいしい料理に関心のある旅行者は、豪華な祭りや活気ある催し物で有名なブリスで過ごす時間を好むかもしれません。より静かな時間を求めて訪れた人はクルーシブルでも散歩に時間を費やしたほうがいいでしょう。そこでは見回りをするダーク・セデューサーが静ひつをよしとする生活を奨励おりますから。 あなたの好みにかかわらず、ニュー・シェオスは他にはない体験をお約束いたします。この案内書では、最後にこの壮麗な都についての読み応えだっぷりの、よく道に迷う人でも目的地に案内する方法を記させていただきます。 ニュー・シェオスに到着したら ニュー・シェオスへの旅行者は、マニアの高地かディメンシャの沼地のどちらからか、その門に訪れることでしょう。ほとんどの方は都の壁の外にある美しく壮大な田園を探索しないで、都への門にせかせかと行ってしまうという勿体無いことをします。シヴァリング・アイルズの森や低湿地は王国中の他のどこに行っても見られないので、これは見なければ損なことです。これらを探索することはその地方の特色を体験するのにとても良いことなので、これらの地区について是非にとお勧めするのは当然なことなのです。 マニア 高くそびえる植物相の色鮮やかな地域 マニアの巨大なキノコの木の中を歩くのは、シヴァリング・アイルズを初めて訪れる人にはすぐには忘れられない体験となるでしょう。胞子の木の森を歩き回り、胞子を含んだ空気を深く吸い込むのに至福の時間─ 永遠にあなたの記憶の中に残ることになる時間。安心と安堵の感情が体に打ち寄せ、心を落ち着かせる。その感覚は今までに感じたことの無かったものでしょう。 時間を取って、その地域で見られる美しい植物を手にとってください。手始めにアロカシアの果実を食べてみください。それは回復特性があることが知られています。ほかには、アスター・ブルームの根を摘んでみてください。地元民の間では悪霊の攻撃を防ぐ能力があると言われています。 マニアの田園で時間を費やすつもりなら、ヘイルの小さな集落を訪れることを検討してください。住民は主に地元の芸術家で、疲れている旅行者を手厚く歓迎してくれることでしょう。必ずヘイルの周辺にある素敵な地区を探索して、心休まる時間を楽しんでください。 用心深い旅行者は安全な旅行者ですがマニアののどかな土地でもそうです。眺めの美しい田園地方を通る道のたいていは安全ですが、周辺地域は不用心な旅行者には危険をもたらすことがあります。マニアは多くの固有動植物種の生息地であり、中には未熟な冒険者の脅威となりうるものも。シヴァリング・アイルズではどこを旅する時でも確実に分かる「道」からそれない事をお勧めします。 ディメンシャ ゆっくりとした時間 よく言われるのが、「ディメンシャで過ごす時間、プライスレス」。これほど的を得た言葉はないでしょう。 多くの人は低地の壮大で美しい景色を楽しみながら、ディメンシャの小さな島を歩き回るのに幾日も費やします。ディメンシャ南部の小さな島にかかるエキゾチックな橋を渡って、コケに覆われた木の間からの覗く美しい夕日をお楽しみください。 ディメンシャの地方を散策中にくつろぐ場所をお探しならば、ディープワロウを訪れることをお勧めいたします。小さな労働農場の集落です。そこには住人が珍しい地元の植物を独特の方法で育てているのです。ディープワロウの住民は内向的な人々なので、近づく時には注意が必要です。一度彼らの習慣を覚えてしまえば、共に時間を過ごすのには最も興味深い人々であることが分かるでしょう。 豆知識: さらに楽しい旅の思い出には、シヴァリング・アイルズの中の類を見ない場所である自殺の丘を訪れてみてください。ディメンシャの中心に位置し、旅行者はこの独特で魅力的な場所を見に行く機会を逃すべきではありません。その丘を訪れるのは無料ですから、中にはなかなか離れることが出来なくなる旅行者もおります。 シヴァリング・アイルズに到着 シヴァリング・アイルズに辿り着くのは、単に狂気の王子である我らがシェオゴラス閣下のきまぐれ。 散策 シヴァリング・アイルズを散策する一番の方法は徒歩です。時間をかけ、美しい景色を通ってのびる道に沿って進もう。歩くのに疲れた旅行者は、この世界中に点在する多くの野営地で休憩場所を見つけることができます。 宿泊施設 高級 ブリスにある、わがまま物乞い亭。愛妻家レイブン・バイター氏と、その妻シアー・ミーディッシュ夫人はブリスで素敵な料理店と宿屋を経営しています。部屋は申し分なく、食べ物はその地区の平均より上。ワインを飲んでみることを強くお薦めします─ それは都にある最上級のものばかり。多くの旅行者は、わがまま物乞い亭を訪れると、昼食が特に素晴らしい時間と感じることでしょう。値段は安くはありませんが早い時間であれば、とても世話好きな感じのするシアー・ミーディッシュ夫人がいらっしゃいます。 一般 クルーシブルにある病弱バーニスの酒場。この名称は馬鹿にしているわけではありません: 病弱バーニスの酒場は、下町のクルーシブルにある酒場ということから予想できるとおりの酒場です。酒場はすぐ隣の地区にあるわがまま物乞い亭にあるものほど豪華ではありませんが、十分満足できる場所となっております。病弱バーニスは働けるだけ元気な時は、愛想のいい女主人です。食べ物はおいしく、飲み物もおいしい。ただしこの酒場を訪れたあとは、イーリル神秘堂にいるイーリルに必ず会うことがお勧です。彼は幅広い種類の魔法を良心的な値段で─疾病退散の薬も─ 売っております。 ショッピング ブリス コモン・トレジャーズ もしも… 何か… を探しているのであれば、ブリスのコモン・トレジャーズは手をつけるのにいい場所です。貿易商のティルセ・アレレスは目利きの客向けの幅広い種類の商品を扱っています。また彼女は旅の途中で見つけるあなたに不要なアイテムをけっこうな値で喜んで買い取ってくれます。 クルーシブル カッター武器店 ニュー・シェオス中探してもこれ以上すばらしい武器屋はありません。カッターはすばらしい店を経営して、いつも種類豊富な武器を取り揃え、直ぐに使えるようにしています。また修理サービスもあり、刃のついた武器であれば極上の手入れをしてくれるはずです。この店は見逃せません。 ブリス ブリス書店 旅の間読むものを探しているのなら、ここに行けば入手できます。ソンテールは本だけでなく、親切であり、なおかつ目利きの本屋です。汗水たらして手に入れたお金も、この店で汗水たらしすぎても後悔はしないでしょう。 ブリス ミッシング・ポルドロン亭 もし防具を欲しくなったら、ブリスにあるミッシング・ポルドロン亭に一直線です。つい最近に経営者ドゥマグ・グロ=ボンクのもとで再開して、店はかなり順調なようです。新しい防具を売ったり、あなたの愛用の防具を修理したり、しばらくの間腰を落ち付けて、彼の長く興味深い経験話をあなたにするだけでも、ドゥマグは幸せなのかもしれません。 クルーシブル イーリル神秘堂 多くの冒険者はすべての呪文を収めた本がなければ旅をしたがらず、イーリル神秘堂はニュー・シェオスで最新の呪文を揃っている場所です。すばらしい呪文の数々は見ているうちに、時に時間が止まっているように感じられるほどです。自信をもってお勧めいたします。 クルーシブル なんでも屋 確かに扱っているのは珍品というべき種類のアイテムですが、クルーシブルにあるなんでも屋を訪れても決して退屈はないでしょう。店主のアージャズダはさらなる魅力的な様々な種類の魔法のアイテムを求めて領域中を走り回り、色々な場所で見つけています。あなたも時間をかけて見てまわってください─ 何が見つかるか分かりませんから! SI 地理・旅行 茶2
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2920 収穫の月(8巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 収穫の月1日 モーンホールド (モロウウィンド) 彼らは黄昏時に公爵の中庭に集まり、温かい焚き火とビターグリーンの葉の香りを楽しんだ。小さな燃えかすが空へ舞い上がってはすぐに消えた。 「私は軽率だった」公爵は、冷静な口調でそう認めた。「そして、ロルカーンは彼らに味方し、全てが彼らの思うままになった。私がモラグ団に支払った報酬が内海に沈んだ今、皇帝の暗殺は失敗だ。君はデイドラの王子たちと協定を結んだのではなかったのか」 「船乗りたちがデイドラと言っていたものが、本当にデイドラかどうか」と、ソーサ・シルが答えた。「船を壊したのは、狂暴な魔闘士や稲妻の類かもしれません」 「皇太子と皇帝は、我々との休戦協定に基づいてアルド・ランバシを占領するため、かの地へ向かっている。自分らの利権については交渉してくるくせに、我々には交渉の余地を与えないとは、シロディールの連中らしいよな」ヴィヴェックは地図を取り出した。「アルド・ランバシの北西の、このファーヴィンシルという村で彼らを待つんだ」 「でも、そこで彼らを待って、話し合いをするのですか?」アルマレクシアがたずねた。「それとも戦うのですか?」 誰もそれには答えなかった。 2920年 収穫の月15日 ファーヴィンシル (モロウウィンド) 夏の終わりのスコールが小さな村を襲っていた。空は暗く、時折稲妻が曲芸のように雲から雲へと渡った。通りはかかとほどの深さのある川のようになり、皇太子はそう遠く離れた場所にいない指揮官たちと話すのに大声で叫ばなければならなかった。 「あそこに宿屋がある! あそこで嵐が過ぎるのを待ってからアルド・ランバシへ進むぞ!」 宿屋の中は暖かく、外の雨とは無縁のようで、にぎわっていた。バーの女たちがせわしなく、グリーフやワインを奥の部屋へ運んでいた。どうやら重要な人物が来ているようだった。タムリエル皇帝の後継者などよりもずっと重要な人物が。ジュレックは面白がって彼女らの様子を見ていたが、そのとき、彼女らの一人が「ヴィヴェック」という名前を口にした。 「ヴィヴェック閣下……」と、ジュレックは奥の部屋に駆け込んで言った。「信じていただきたい。ブラックゲートへの攻撃は、私のあずかり知らないところで行なわれたのです。もちろん、直ちに賠償をさせていただきたいと思います」彼は一瞬沈黙し、部屋の中に見慣れない人物がたくさんいるのに気付いた。「失礼しました、私はジュイレック・シロディールです」 「アルマレクシアです」皇太子が今までに見た中で一番美しい女性が名乗った。「こちらへお入りになりませんか?」 「ソーサ・シルです」白いマントをつけた厳格な面持ちのダークエルフが皇太子と握手し、椅子を勧めた。 「インドリル・ブリンディジ・ドローム、モーンホールド大公です」と、皇太子が席に着くと、隣に座っていた大柄な男が言った。 「先月に起こったことからもわかるとおり、帝都軍は私の指揮下にはないのです」皇太子はワインを注文し、話しはじめた。「帝都軍は父のものですから、まあ当然なのですが」 「皇帝陛下もアルド・ランバシへいらっしゃるのでしょう」と、アルマレクシアが言った。 「表向きはそういうことになっていますが……」と、皇太子は慎重に言葉を選びながら言った。「実際は、まだ帝都に残っているのです。不運な事故がありまして」 ヴィヴェックは公爵を見てから、皇太子のほうを向いた。「事故?」 「皇帝は無事なのです」と、皇太子は慌てて言った。「命に別状はないものの、片目を失明しそうなのです。この戦争とはまったく無関係の諍いの結果です。不幸中の幸いは、皇帝が回復するまで私が皇帝の代理になるということです。今、この場で結んだ条約は全て帝都に持ち帰られ、皇帝の代はもちろん、私が正式に皇帝になってからも効力を失うことはありません」 「それなら、さっそく始めましょう」アルマレクシアがほほえんだ。 2920年 収穫の月16日 ロス・ナーガ (シロディール) ロス・ナーガの小村の眺めは、キャシールの目を楽しませた。色とりどりの家がロスガリアン山脈の大地を見下ろす断崖に立ち並び、遠くハイ・ロックまでを見渡すことができた。息をのむような素晴らしい眺めに、彼は最高の気分だった。しかし同時に、このような小さな村では、彼と彼の馬が満足な食事をとることはできなさそうだとも思っていた。 彼が馬で村の中心の広場まで来ると、そこに「イーグルズ・クライ」という宿屋があった。厩番の少年に馬をあずけ、餌をやるように言いつけてから、キャシールは宿屋に入った。宿屋の中の雰囲気は、キャシールを圧倒するようなものだった。ジルダーデールで見たことのある吟遊詩人が、地元の山男たちに陽気な音楽を奏でていた。そういった陽気さは、今の彼にはうっとうしかった。音楽と喧騒から離れた場所にテーブルが一つあり、陰気なダークエルフの女性が座っていた。キャシールは自分の飲み物を持ってそちらへ行き、同じテーブルについた。その時初めて、彼はその女性が生まれたばかりの赤ん坊を抱いていることに気付いた。 「モロウウィンドから着いたばかりなんです」彼はどぎまぎして、声を落としながら話しかけた。「ヴィヴェックとモーンホールド公爵の側で、帝都軍と戦っていたんですよ。自分と同じ人種を裏切ってきたわけです」 「私も、同じ人種の人たちを裏切ってます」と、女性は言い、手に刻まれた印を見せた。「もう、故郷には帰れません」 「まさか、ここに滞在するつもりじゃないでしょうね?」キャシールは笑った。「ここは確かにいいところですが、冬までいてごらんなさい、目の高さまで雪が積もるんですよ。赤ん坊がいられるところじゃありません。その子、名前は何ていうんです?」 「ボズリエルです。『美しい森』という意味です。これからどちらへ行かれるのですか?」 「ハイ・ロックの海沿いにある、ドワイネンというところです。よかったら一緒に行きませんか。連れがいたほうがいいんです」キャシールは手を差し出した。「キャシール・オイットリーです」 「トゥララです」と、一瞬考えてから、彼女は答えた。風習に従って苗字を先に言おうとしたのだが、その名がもはや彼女の名前ではないことに気付いたのだった。「ありがとう、ぜひ、ご一緒させてください」 2920年 収穫の月19日 アルド・ランバシ (モロウウィンド) 城の大広間に、5人の男と、2人の女が黙って立っていた。聞こえてくる音といえば、羽ペンが羊皮紙の上を滑る音と大きな窓を叩く雨の音だけだった。皇太子が文書にシロディールの印を押し、公式に戦争が終わりを告げた。モーンホールド公爵は喜びの声をあげ、80年間続いた戦争の終結を祝うため、ワインを持ってくるように言いつけた。 ソーサ・シルだけが、喜ぶ人々の輪から離れて立っていた。彼の顔からは、どんな種類の感情も読み取れなかった。彼は物事の終わりや始まりといったものを信じておらず、ただいつまでも続く繰り返しの一部分としか思っていなかったのだ。 「皇太子殿下」城の執事が、祝いの最中に申し訳なさそうに入ってきた。「お母様の皇后陛下からの使者が到着し、皇帝陛下に謁見したいとのことだったのですが、間に合わなかったために──」 ジュレックは周囲に断り、使者と話すためにその場を離れた。 「女帝は帝都に住んでいないのか?」とヴィヴェックがたずねた。 「ええ」アルマレクシアは、悲しい顔で首を横に振った。「皇帝が、女帝が反逆を企てていると疑って、彼女をブラック・マーシュに幽閉したのです。女帝は莫大な資金を持ち、西コロヴィア地方の多くの領主と同盟関係にあったため、皇帝は彼女を処刑することも離婚することもできませんでした。皇帝と女帝は、ジュイレック王子がまだ子供のころから17年間、離れて暮らしています」 数分後、皇太子が戻ってきた。平静を装おうとしていたが、彼の顔からは不安の色がにじみ出ていた。 「母が私を呼んでいる」と、彼は簡潔に言った。「申し訳ないが、行かなくてはなりません。もしよければ、この条約文書を持っていって女帝に見せ、喜ばしい平和条約が結ばれたことを報告したいと思います。その後、文書は帝都に持ち帰り、公式に発効させます」 ジュイレック王子はモロウウィンドの3要人に丁寧な別れの挨拶を延べ、広間を出た。馬に乗った皇太子が夜の雨の中を南のブラック・マーシュへ向けて走ってゆくのを窓から見ながら、ヴィヴェックは言った。「彼が皇帝になれば、タムリエルはずっと良い国になるだろうな」 2920年 収穫の月31日 ドルザ・パス (ブラック・マーシュ) 荒涼とした石切り場の上に月がのぼり、熱い夏の間に溜まった沼気が立ち上っていた。皇太子と二人の護衛は馬で森を抜けたところだった。太古の昔、この地に住んでいた人々は北からの侵入者を防ぐために泥と肥やしを高く積み上げて土塁をつくり、それは彼らが滅び去った今も残っていた。しかし、侵入者たちはこの土塁を破っていたようだ。ドルザ・パスと呼ばれる道が、この何マイルも続く土塁を貫いていた。 土塁の上にはねじ曲がった黒い木々が生え、絡み合った網のような奇妙な影を落としていた。皇太子は、母の手紙のことを考えていた。その謎めいた手紙には、侵略の脅威がほのめかされていた。もちろん、そのことをあのダークエルフたちに伝えることはできなかった。少なくとも、もっと詳しいことを知り、皇帝に報告した後でなければ。何よりも、手紙は彼だけに宛てて書かれていたのだ。急を要しそうなその文面に、彼は直接ギデオンへ出向くことを決めたのだった。 女帝からの手紙には、最近、解放された奴隷たちがドルザ・パスで行商人を襲うことが多いので気をつけるようにとも書かれていた。そして、奴隷を使っていたダークエルフではないことを示すため、皇帝家の紋章が入った盾を目立つように掲げるようにとの助言が付け加えられていた。背の高い草が不愉快な川のように道を横切って生い茂っている場所があり、そこを通るときに、皇太子は盾を掲げるように命じた。 「奴隷たちが通行人を襲うならこのあたりでしょうな」と、護衛隊長が言った。「ここは待ち伏せにぴったりです」 ジュレックはうなずいたが、心では別のことを考えていた。女帝のいう侵略の脅威とは何だろうか? アカヴィリがまた海から攻めてきたのか? もしそうだとしても、ジオヴェーゼ城に幽閉されている母がなぜそれを知り得たのか? そのとき後方の草の中で何かが動く音と、短い叫びが聞こえたので、彼の考えは中断された。 振り向くと、皇太子は一人になっていた。護衛が消えていたのだ。 皇太子は、月明かりに照らされた草原を見渡してみた。道を吹き抜ける風に草原はまるで大海原で潮が満ち引きするように揺れ、その様子は幻惑的ですらあった。この揺れ動く草の下で、兵士が格闘していても馬が死にかけてもがいていても、わかりそうになかった。ひゅうひゅうと吹く風がまわりの音を消し、伏兵にやられた兵士が声をあげても彼の耳には届かないだろう。 ジュレックは剣を抜き、どうすべきか考えた。理性が、混乱する心に落ち着くよう告げていた。彼は、道の入り口よりも出口に近い地点にいた。護衛を殺した者は、おそらく後ろにいるはずだった。馬をとばせば、逃げ切れるかもしれない。彼は馬に拍車をかけ、前方に見える黒い泥の丘へ向けて駆け出した。 彼の体が宙を舞ったとき、あまりにも突然すぎて、彼にはいったい何が起こったのかわからなかった。少し離れた先の地面に投げ出され、衝撃で肩と背中の骨が折れたようだ。全身がしびれ、馬のほうを見ると、かわいそうに腹に大きな傷を負って死にかけていた。草の高さのあたりから突き出ている数本の槍でやられたのだろう。 ジュイレック王子は、草むらから出て来た者の顔を見ることも、動いて身を守ることもできなかった。皇帝家の人間にふさわしい死の儀式もないまま、彼は喉を切り裂かれた。 ミラモールは、月明かりに照らされた死体の顔を見て悪態をついた。彼は以前、ボドラムの戦いで皇帝の指揮下で戦い、その際に皇帝の顔も見ていたので、この人物が皇帝でないことはすぐにわかった。死体の服を探り、彼は手紙と条約文書を見つけ出した。モロウウィンドを代表するヴィヴェック、アルマレクシア、ソーサ・シル、そしてモーンホールド公爵と、シロディール帝都を代表するジュイレック・シロディールの署名のある平和条約だった。 「ついてない」と、草のざわめく音の中、ミラモールはぶつぶつと独り言を言った。「皇太子しか殺せなかった。何の得にもならない」 ミラモールはズークに言われたとおり、手紙を始末し、条約文書はポケットにしまった。大抵、こうした珍しいものには金を出そうという者がいるのだ。彼は用のすんだ罠を取り外し、次はどこへ行こうかと考えた。ギデオンに戻り、依頼主に皇帝ではなくその後継者を暗殺したと報告し、いくらかでも報酬をもらえないかたずねてみようか? それとも他の土地へ行こうか? 少なくとも、彼はボドラムの戦いで2つの有用な能力を身に付けていた。ダークエルフからは、槍を使った強力な罠の作り方を学んだ。そして、帝都軍を去ることで、草むらに忍んで動き回る能力を身に付けたのだった。 時は薪木の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
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アカヴィルの不思議 アカヴィルは「竜の国」、タムリエルは「暁の神秘」、アトモラは「エルダーウッド」をそれぞれ意味する。ヨクーダの意味するところはレッドガードにしかわからない。 アカヴィルは野獣の王国である。人間もエルフも暮らしていない。かつて人間が住み着いたことがあったが、彼らはとうの昔にツァエシの生血を吸う蛇人に食べられてしまった。たとえ食われずにすんだとしても、遅かれ早かれタムリエルに移り住んだことだろう。ノルドはアトモラからタムリエルに向かった。ノルドよりも早く、エルフはアルドメリスを捨ててタムリエルを目指していた。レッドガードは旅をするためにヨクーダを破壊した。人間やエルフなら、タムリエルが創造の中心であること、そこで最終戦争が勃発すること、神々がロルカーンを破壊して謎めいたアダマンチンの塔をあとに残した土地であることは知っている。アカヴィルがタムリエルをどうとらえているのかは誰にもわからないが、考えてみるといい。どうして彼らは三度以上もその地を侵略しようとしたのか? アカヴィルにはカマール、ツァエシ、タン・モー、カ・ボツーンという四大国家がある。タムリエルに攻め込んでいるときをのぞけば、彼らはお互いに戦っている。カマールとは「雪の地獄」という意味で、悪魔のはびこる土地である。夏がやってくると活発になり、毎年のようにタン・モーに攻め込むが、勇敢な猿人たちが彼らの侵略を許さない。かつて悪魔の王、アダスーム・デア・カマールがモロウウィンドの征服を目論んだものの、アルマレクシアと地帝王の手により、赤き山で成敗された。 ツァエシは「蛇の宮殿」という意味であり、かつて(竜虎が訪れるまで)はアカヴィルで最大の勢力でもあった。アカヴィルの人間を食いつくしたのはこの蛇人ではあるが、その姿はどことなく人間のようでもある。すらりとして美しく(恐ろしくもあるが)、黄金の鱗におおわれ、永遠の命を持つ。近隣の島々に暮らすゴブリンを奴隷にしてこき使い、その生血をすする。ツァエシの領地は広大である。タムリエルの地元民がアクヴィルと聞いて思い浮かべるのはこの蛇人である。前世紀には蛇人のひとりがシロディール帝都を四百年にわたって支配したことがあるからだ。その名を支配者ヴェルシデュ・シャイエといい、モラグ・トングの手で暗殺された。 タン・モーとは「千の猿の島」という意味である。いろいろな種類の猿人が暮らしており、みな一様に気さくで、勇ましく、単純である(なおかつ、多くは狂っている)。周囲の国家の襲撃によって奴隷にされかけたことが何度かあるため、もしものときは軍隊も組織する。蛇人と悪魔のどちらとも憎んでいるはずだが、あえてどちらかを選ぶとなると、彼らはきっと「蛇人」と答えるだろう。かつては仲たがいしていた時期もあったが、カ・ボツーンの虎人とは同盟関係にある。 カ・ボツーンとは「竜虎の帝都」という意味である。この地の猫人は、竜虎である聖人によって統べられている。今や立派な帝都であり、その力はツァエシをもしのぐ(ただし、海上ではまだかなわない)。蛇人は人間を食いつくしたのち、竜族を食いつくそうとした。赤竜はなんとか奴隷にしたものの、黒竜はボツーン(当時の名称)に逃がしてしまった。大戦が勃発し、猫人も蛇人もぼろぼろに衰弱し、竜族は絶滅した。そのときから、猫人は竜族になろうとしてきた。その最初の成功例がトシュ・ラカである。彼は世界最大の竜であり、その身体は橙と黒で彩られ、その頭脳は斬新なアイデアに満ちている。 「まずは生血吸う蛇どもを皆殺しにしよう」と、トシュ・ラカは言う。竜虎の帝都がタムリエルを侵略するのはそれからだと言いたいのだろう。 地理・旅行 緑2
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アイレイド最後の王 ヘルミニア・シンナ 著 アイレイドとは有史以前の神話の時代にシロディールを支配していたハートランドのハイエルフの別名である。ちなみに、歴史上存在する最も古い記録の一つが第一紀243年に起こった白金の塔の陥落であり、一般的にこの一件がアイレイドの滅亡を意味していたとされている。 アイレイドによるシロディール全土の支配体制は第一紀243年に崩壊したものの、これは長年に及ぶ停滞の中での顕著な一件に過ぎなかった。第一紀の最初の二世紀の間に、シロディール各地の偉大なるアイレイドの王たちの間で騒乱が拡大していったのである。アレッシアは内乱が発声した時期に合わせて蜂起を計画したようである。帝都の歴史家たちは伝統的に彼女の勝利をスカイリムからの干渉によるものとみなしてきたが、白金の塔の攻城戦の際は反乱側のアイレイドの諸侯から同程度以上に支援を受けていたようである。 残忍な奴隷使いという典型的なアイレイド像は無論事実に基づいたものであるが、意外と知られていないのが、何人かのアイレイドの王子が263年以降もシロディールの新女帝の臣下としてシロディールのいくつかの地方を支配し続けたことである。これはアイレイドによる支配が必ずしも全土で忌み嫌われていたわけではなかったか、あるいはアレッシアとその後継者たちが一般に思われているよりも実利主義的であったか、あるいはその両方であったことを示唆している。 いずれにせよ、複数のアイレイドの遺跡での発掘調査により、いわゆる後アイレイド期(第一紀243年から498年頃まで)にもそこにアイレイドがとどまっていたことがわかっており、所によっては領土が発展していた様子さえうかがえる。当初、何人ものアイレイドの諸侯が人間たちの新帝都の臣下として統治を続けていた。アレッシアに味方をしたアイレイドに見返りとして倒した敵の領地を与えた場合もいくつかあったようである。シロディール帝都下で人間たちの隷属がどの程度存続したかは明らかになっておらず、シロディール内のアイレイドの支配下の地域に人間が住み続けたことは確かながら、その暮らしの状況がいかなるものであったかを決定づける根拠は見つかっていない。 しかしアイレイド諸侯と人間側との関係は当初から不安定なものであり、長続きするはずもなかった。帝都内にアイレイドの諸侯がとどまり続けていることに対する憤りが、マルクによって創設されたいわゆるアレッシア派の台頭の一因となっていたようである。最初にアレッシア派の犠牲となったのは、シロディール内のアイレイドたちだったのである。300年代初頭にて、人間の支配下にある地域のアイレイド集落は一つ一つ滅ぼされていき、戦火を逃れた難民が一時的に残存するアイレイド領の勢力を強めることになった。 361年にはアレッシア派勢力が帝都の覇権を握り、アレッシア主義を全土に浸透させ、これによりアイレイド諸侯による地方統治は廃止された。この法令の適用には直接的な武力はほとんど必要とされなかったようである。それはこの時点で力の差があまりにも歴然としており、自分たちの命運を長年に渡って予感していた生き残りのアイレイドたちの大半が迷わずシロディールを離れ、やがてエルフたちの住むヴァレンウッドやハイ・ロックへと散っていったからである。ディレニ勢の台頭も、シロディールからのアイレイドの流出に関連があると考えられる(この点に関して歴史家たちによる検証はまだほとんどなされていない)。 このような流れにもかかわらず、アレッシア派による支配を生き延びたアイレイドの残存勢もいたらしく、ディレニ勢がアレッシア派に決定的な打撃を与えた482年のグレヌンブリアの沼地での戦いでは、「アイレイド最後の王」が加勢したとされている。この王の臣下たちがそれまでの百年間をどうやって生き延びたのかは解明されていない。この一派が何者であったかすらわかっていないのだが、最近の研究ではこの「最後の王」がネナラタに眠っている可能性が指摘されている。あいにく、帝都の現状ではネナラタのような大規模な遺跡に対し入念な科学的調査を施すだけの資金が確保できなくなっているため、これらの謎の解明は後世の者たちに託すことになりそうである。 その他クエスト関連 九大神の騎士関連 歴史・伝記 赤2
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2920 薪木の月(9巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 薪木の月2日 ギデオン (ブラック・マーシュ) 女帝タヴィアは彼女のベッドに横たわり、独房のなかを行ったり来たりする晩夏の熱風を感じられずにいた。喉は燃えるようにひりついていたが、それでも彼女は抑えきれずにすすり泣き、最後のつづれ織りを手で握りつぶした。彼女の嘆きの声はギオヴェッセ城の誰もいない廊下中をこだまし、洗い物をしていた召使いの手や衛兵の会話を止めた。彼女の召使いの1人が細い階段を登ってきたが、彼女の衛兵長ズークが入り口に立ち、首を振った。 「彼女はたった今、息子の死を知った」と、彼は静かに言った。 2920年 薪木の月5日 帝都 (シロディール) 「陛下――」ポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエは扉を挟んで言った。「扉を開けても大丈夫です。お約束します、完全に安全です。誰も陛下を殺そうとはしていません」 「ああ、マーラよ!」押さえ込むような乱心の混じった皇帝レマン三世の声がした。「誰かが王子を暗殺したのだ。そして彼は私の盾を持っていた。私であると思いこんだのかもしれないではないか!」 「確かにその通りです、陛下」ポテンテイトは軽蔑しながらも声から一切のあざけるような口調を消し去り言った。「そして、我々は陛下の息子の死に対して責任を負うべき悪人を探し、処罰しなければなりません。しかし、陛下なくしてそれはできません。帝都のために勇敢でおありください」 返答はなかった。 「最低でも出てきてリッジャ貴婦人の処刑指令書に署名願います」ポテンテイトは呼びかけた。「我々の知る、裏切り者であり暗殺者である1人を処分しましょう」 しばらく沈黙が続き、そして家具が床の上を引きずられる音がした。レマンは扉をほんの少しだけ開いたが、怒り、恐れている顔と、以前は彼の右目があった場所にある、引き裂かれた皮膚の盛り上がりがポテンテイトには見えた。帝都の最高の治癒師の治療もむなしく、サーゾ要塞でのリッジャ貴婦人からの恐ろしい置き土産がそこにあった。 「指令書をよこせ」皇帝は怒鳴り声を出した。「喜んで署名してやる」 2920年 薪木の月6日 ギデオン (シロディール) 沼地の気体と霊的なエネルギーの組み合わせであると教えられたウィル・オ・ウィスプの奇妙な青い光は、窓の外を見るたびにタヴィアを怖がらせてきた。今は妙に慰めているように見えた。沼地の向こうにはギデオンの街がある。17年間も毎日見てきたのに、あの街の街路に1度も足を踏み入れたことがないことを可笑しく思った。 「何か私が忘れているものを思いつくか?」彼女は忠実なコスリンギー・ズークに振り返りながら聞いた。 「何をすればよいのか、明白に分かっております」と、彼は簡単に言った。彼が笑ったように見えたが、彼女の笑顔が彼の銀色に光る肌に反射されたのだと女帝は気付いた。彼女は自分が笑っていることに気が付いていなかった。 「尾行されていないことを確認するのだぞ」と、彼女が警告した。「この長きに渡り、どこに我がゴールドが隠されているのかを夫には知られたくない。あと、自分の分け前はしっかりと取るのだぞ。そなたは良き友であった」 女帝タヴィアは前へと踏み出し、霧の中へと視界から消え落ちた。ズークは塔の窓に鉄格子を戻し、ベッドの上の枕に毛布を被せた。運がよければ明日の朝まで芝生に横たわる彼女を発見しないであろう。そしてそのころには、彼はモロウウィンドの近くまで辿りつけていることを期待していた。 2920年 薪木の月9日 フィルギアス (ハイ・ロック) 周囲にある奇妙な木々が、赤や黄色やオレンジがほとばしる毛糸の束のように見え、それはまるで虫の巣に火をかけ、様々な彩りの生き物が一斉に出てきたようであった。ロウスガリアン山は霧のかかった午後にかすんでいった。トゥララは広い牧草地へと馬をゆっくりと進めながら、見慣れない、モロウウィンドとはまったく違った景色に驚いた。後ろでは、頭を縦に振りながら、キャシールがボズリエルを抱きかかえたまま眠った。一瞬、トゥララは野原をさえぎるペンキで塗られた低い柵を飛び越えようかと考えたが、それはやめておいた。キャシールに手綱を渡す前に、あと数時間寝かせてあげようと思った。 馬が野原に進み入ると、トゥララは森に半分隠れている小さな緑の家を隣の丘の上に見た。その姿は絵に描いたように美しく、彼女は半眠状態に引き込まれていくのを感じた。そのとき、ホーンの爆音が身震いとともに彼女を現実へと引き戻した。キャシールは目を開けた。 「今、どこ?」と、彼が息をもらすように言った。 「分からないわ」トゥララは目を見開き、どもった。「あの音はなに?」 「オーク」と、彼はささやいた。「狩り集団だ。やぶの中へ、急いで」 トゥララは馬を小走りで木が数本集まっているところへと走らせた。キャシールは子供を彼女に渡し、馬から降りた。彼は、荷物を引き降ろし始め、やぶの中にそれらを投げ入れた。そのとき、音が鳴りはじめた。遠い足音の轟音、徐々に大きくなり、近づいてくる。トゥララは慎重に馬から降り、キャシールが馬から荷を降ろすのを手伝った。その間、ボズリエルは目を見開いて見ていた。トゥララは時々、子供がまったく泣かないことを心配したが、今はそれに感謝している。すべての荷を降ろしたところで、キャシールは馬の尻を打った。そしてトゥララの手を取り、茂みのなかにしゃがみこんだ。 「運が良ければ――」彼はひそひそと言った。「彼らはあの馬のことを野生か農場の馬だと思ってくれて、乗り手を探しには行かないだろう」 彼がそう言ったとき、オークの大群がホーンを轟かせながら野原に殺到した。トゥララは以前オークを見たことがあったが、これほど多数でもなければ、これほど野蛮な自信に溢れてはいなかった。馬とその混乱ぶりに狂喜しながら、彼らはキャシール、トゥララ、ボズリエルが隠れている茂みを急ぎ通り越していった。彼らの暴走で野花が舞い上がり、空気中にそのタネを撒き散らした。トゥララはくしゃみを押さえ込もうとし、上手くいったと思った。しかし、オークのうちの1匹が何かを聞きつけ、調査のためにもう1匹連れてきた。 キャシールは静かに剣を抜き、自分の中の自信をできる限りかき集めた。彼の能力、あまり良いとは言えないそれは、間諜であり戦闘ではなかった。しかし、彼はトゥララと赤子をできるだけ長く保護すると誓っていた。彼は思った、もしかしたらこの2匹は殺せるかもしれないが、叫んで大群の残りを呼び寄せる前には無理である。 突然、見えない何かが風のように茂みの中を通りすぎていった。2匹のオークは後ろに飛ばされ、背を地につけて死んでいた。トゥララは後ろを振り向き、近くの茂みから真っ赤な髪を持つ、しわくちゃの老婆が出てくるのを見た。 「私のところに連れてくるつもりかと思ったぞ」彼女はささやいた、微笑んでいる。「一緒にきたほうがよい」 三人は丘の上の家に向かって生えている、茨の付いた茂みの裂け目をとおりながら老婆の後についていった。逆側に出ると、老婆はオークたちが馬の残骸をむさぼり食っているのを見に振り返った。それは複数のホーンの拍子に乗った、血まみれの祝宴であった。 「あの馬はあんたのかい?」と、老婆が聞いた。キャシールがうなずくと、彼女は声をあげて笑った。「あれはいい肉すぎじゃの。あのモンスターどもは、明日には腹痛をおこして、腹がふくれ上がっていることじゃろう。いい気味じゃ」 「歩き続けなくて平気なの?」老婆の大声に肝を抜かれて、トゥララは声を低くして言った。 「奴らはここへはこんよ」笑みを浮かべ、笑い返すボズリエルを見ながら老婆は言う。「奴らは我々を恐れておるのでな」 トゥララは首を振っているキャシールのほうを向いた。「魔女か。ここは古きバービンの農場、スケフィントン魔女集会と思って間違いではないかな?」 「おりこうさんじゃの」老婆は悪名高きことを嬉しく思い、若娘のようにクスクスと笑った。「私の名はミニスタ・スケフィントンじゃ」 「さっきの茂みの中で… あのオークたちには何をしたの?」と、トゥララが聞いた。 「霊魂の拳を頭の右側に放ったのじゃ」とミニスタは言い、坂を上り続けた。その先には農場が開け、井戸や鶏舎や池があり、様々な年齢の女性たちが家事を行い、はしゃぐ子供たちの笑い声がした。老婆は振り向き、トゥララが理解していないことに気が付いた。「あんたの故郷には魔女がおらんのかね?」 「知る限りでは、いないわ」と、彼女は言った。 「タムリエルには実に様々な魔法の使い手がおる」彼女は説明した。「シジックたちは、彼らのつらい義務であるかのように学ぶ。真逆の対象として、軍の魔闘士たちは呪文を矢の如く浴びせかける。我々魔女たちは、呼び出し、集い、祝うのじゃ。あのオークたちを倒すには、私が親密な関係を持つ風の精霊たち、アマロ、ピナ、タラサ、キナレスの指、そして世界の風にあの雑魚どもを殴り殺すようささやきかけただけじゃ。召喚とは、力や謎解きや古い巻物を苦しみながら読むことではないのじゃ。召喚とは良き関係を築くことである。仲良くすること、とも言えるの」 「特に、私たちと仲良くしてくれていることには感謝する」と、キャシールは言った。 「そうじゃが、さらに言うとな――」ミニスタは咳払いをした。「あんたらの種族が2千年前にオークの母国を破壊したのじゃ。それまでは、やつらがここまできて我々の邪魔をすることもなかったのじゃ。さて、旅のほこりを落として、食事にでもしようかの」 そう言うとミニスタは彼らを農家へと案内し、トゥララはスケフィントン魔女集会の一家と知り合いになった。 2920 薪木の月11日 帝都 (シロディール) リッジャは前の晩、寝ようともしていなく、今彼女の処刑時に演奏されている悲しい音楽には催眠効果があると思った。それはまるで、斧が振り下ろされる前に、自発的に無意識になろうとしているようであった。彼女の目は覆われていたので、彼女の前に座り片目でにらんでいる元愛人、皇帝の姿は見えなかった。彼女は、金色の顔に勝利の表情を浮かべ、彼の下で尻尾がきれいに巻かれたポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエの姿を見えなかった。彼女を抑えようと触れた執行者の手の感触は、しびれながら感じられた。夢から覚めたものが起きようとするように跳ね上がった。 最初の一撃は頭の裏にあたり、彼女は悲鳴をあげた。次の斬撃は首を叩き切り、彼女は死んだ。 皇帝は疲れたような素振りでポテンテイトに向き、「これは終わったな。それで、彼女にはコルダという名のかわいい妹がハンマーフェルにいたと言ったな?」 2920年 薪木の月18日 ドワイネン (ハイ・ロック) 魔女たちが売ってくれた馬は、前の馬ほどよくはなかったとキャシールは思った。霊の崇拝や生けにえや姉妹関係は霊の召喚には便利で役立つのかもしれないが、荷役用の動物にはあまり効果がないらしい。それでも、彼には文句を言う理由がなかった。ダンマーの女とその子供が彼の手を離れ、彼は予定よりも早く到着できた。先には彼の母国を囲う壁が見えた。ほぼ同時に、彼の周りには旧友や家族の人々が群がった。 「戦争はどうだったの?」従兄弟が叫びながら道に出てきた。「ヴィヴェックは王子との和平に応じたのに、それを皇帝が拒否したって本当なの?」 「そうじゃないだろう、違うのか?」と、友達の1人が輪に入りながら言った。「ダンマーが王子を殺させて、その後、条約の話をでっち上げたけど証拠がないって俺は聞いたぜ」 「ここでは何も面白いことは起きていないのか?」キャシールは笑った。「本当に、これっぽっちも戦争やヴィヴェックについて語る気がしない」 「おまえはコルダ貴婦人の行列を見逃したぞ」と、友が言った。「大勢の取り巻きと一緒に湾を横切ってきて、帝都に向かって東に行ったんだ」 「でもそんなのは大したことないや。それで、ヴィヴェックって、どんななの?」従兄弟が熱心に聞いた。「彼は現人神のはずだよね?」 「もしシェオゴラスが退いて、他の乱心の神が必要になったなら、彼がうってつけだな」と、キャシールは偉そうに言った。 「それで、女は?」極稀な機会にしかダンマーの女性を見たことがない青年が聞いた。 キャシールはただ微笑んだ。トゥララ・スケフィントンが一瞬頭をよぎり、すぐに消えた。魔女集会と一緒にいれば彼女は幸せであろうし、子供の面倒もしっかりと見てくれるであろう。しかし彼女たちは、今では戦争や場所などの永遠に忘れたい過去の一部であった。彼は馬から降りて街に踏み入り、イリアック湾での毎日の小さな噂話に花を咲かせた。 物語(歴史小説) 紫1
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野生のエルフ キエルジョ・チョルナヴァク 著 タムリエルのほぼ全地方の荒野には、直接ではないにせよ少なくとも思想上はこの地で最初の住人たちの末えいであるアイレイド、通称ワイルドエルフが住んでいる。エルフの亜種のうち、アルトマー(ハイエルフ)、ボズマー(ウッドエルフ)、ダンマー(ダークエルフ)の三種族はタムリエルの新たな文明によく馴染んでいるものの、アイレイドおよびその末えいは文明を疎む姿勢を崩さず、世間の目を避けて古き法を守ることを選んでいる。 ワイルドエルフたちはタムリエル語を嫌い古代シロディール語の一方言を話すため、最も文明化の遅れている他のエルフの亜種に比べても、タムリエルの本流から離れてしまっている。彼らは性格的には陰気で無口だが、これは(彼らが「ペラーニ」と呼ぶ)よそ者たちの観点からの感想であり、同族相手にはその態度も変わってくるものと思われる。 一例として、グウィリム大学屈指の賢者の一人であった、文明に帰化したアイレイドエルフのチュルヘイン・フィーレ(第一紀2790年生、第二紀227年没)が記したワイルドエルフに関する文献には、色鮮やかで活気のある文化が描かれている。フィーレは同族や自分たちの宗教について自由に語った数少ないアイレイドに一人であり、「アイレイドの諸族の気質は多種多様であり、その性格はたとえ隣り合う地域の部族間であっても大きく異なることが少なくない」と主張している(フィーレ、T、アイレイド詩吟の性質について、p.8、グウィリム大学出版部、第二紀12年)。 ワイルドエルフたちは他の異質な文化をもつ種族同様、タムリエルの庶民階級の多くに恐れられている。アイレイドはタムリエルの大陸屈指の大いなる謎であり続けており、その役割を問わず歴史の記録に登場することは稀であり、言及されていたとしても記録者が見かけた直後に森の中に消えてしまう奇妙な人影といった程度である。ありきたりな伝説から架空ながら現実味のある話を抽出してみても、ほとんど何も残らない。アイレイドの神秘は第一紀以前から謎に包まれたままであり、その状態が以後何千年もの間続いたとしても不思議ではない。 民族・風習・言語 赤3
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「王者」 レヴェン 著 読者諸君、この連続物語の3巻、「物乞い」「盗賊」「戦士」を読み、記憶に留めていない場合は、結末へとたどり着くこの最終巻に書かれている内容を理解することは難しいだろう。お近くの本屋でのお求めをお勧めする。 前回の物語は、いつもの如くエスラフ・エロルが命をかけて逃走しているところで幕を閉じた。彼は多量の金と非常に大きな宝石を、ジャレンハイムのスオイバッドという名の富豪から盗んだ。その盗賊は北へと逃げ、盗賊らしくありとあらゆる非道徳的な快楽のために、金を湯水の如く使った。この本を読んでいる淑女や紳士を動揺させてしまうような内容なので、詳しくは述べないことにする。 手放さなかったのはあの宝石だけである。 愛着があって手放さなかったわけではなく、彼から買い取れるほどの金持ちを知らなかったからである。何百万もの価値がある宝石を手にしながら、無一文という皮肉な状況に彼は陥っていた。 「これと交換で、部屋とパンとビールの大瓶をくれないか?」あまりにも北すぎて、その半分が亡霊の海に面する小さな村、クラヴェンスワードの酒場の店主に彼は聞いた。 酒場の店主はそれを疑わしげに見た。 「ただの水晶だよ」と、エスラフはすぐさま言った。「でも、きれいじゃない?」 「ちょっと見せて」鎧に身を固め、カウンターの端にいた女性が言った。許可を待たずに彼女は宝石を手に取り、見つめ、そしてあまり優しくなさそうな笑みをエスラフに向けた。「私のテーブルで一緒にどう?」 「実は、ちょっと急いでいるので」と、宝石に向かって手を伸ばしながらエスラフは答えた。「またの機会に」 「友であるこの酒場の店主に敬意を表して、私も部下も皆、ここにくるときは武器を置いてくる」宝石を返さず、カウンターに立てかけてあったほうきを手に取りながら、何気なく彼女は言った。「でも、これだけは断言できるわ。私はこれを武器としてかなり有効に使える。もちろん、武器ではないけれど、気絶させるたり骨の1本や2本を折る程度、そして── 1度中に入ったら……」 「どのテーブルだい?」エスラフは即座に聞いた。 その若い女性は、エスラフがいまだに見たことがないほど大きなノルドが10人座っている、酒場の裏にある大きなテーブルへと彼を連れて行った。彼らはエスラフのことを、踏み潰す前に一瞬の観察に値する奇妙な虫であるかのような無関心さで見つめた。 「私の名前はライスィフィトラ」と彼女は言い、エスラフは瞬きをした。それはエスラフが逃走する前に、スオイバッドが口にした名前であった。「彼らは私の副官たち。私は気高い騎士たちから成る大きな独立した軍の指揮官。スカイリム最高の軍よ。つい最近、ラエルヌと言う男が我々の雇い主がスオイバッドと言う男にブドウ園を売り渡すことを強要するため、アールトにあるブドウ園を攻撃する仕事を与えられたわ。我々の報酬は、とても有名で間違えようのない、飛び抜けた大きさと質の宝石のはずだったの」 「依頼通りにやり遂げ、スオイバッドの下に謝礼を受け取りに行ったら、彼は最近泥棒に入られたために支払えないといったわ。でも最終的には私たちの言うことを聞き、貴重な宝石の価値に匹敵するくらいの金を支払った。彼の宝物庫を空にはしなかったけれど、結局はアールトの土地を買えないことになったわ。よって、私たちは十分な支払いを受けられなかったし、スオイバッドは金銭的な痛手を負い、ラエルヌの貴重なジャズベイは一時的に意味もなく台無しにされたの」ライスィフィトラは続ける前に、ゆっくりとはちみつ酒を1口飲んだ。「さて、よく分からないから教えてくれない? 私たちが手に入れるはずだった宝石を、どうしてあなたが持っているの?」 エスラフはすぐには答えなかった。 その代わり、左にいる髭を生やした蛮族の皿からパンを1切れ取り、食べた。 「すまない」と口をモグモグさせながら彼は言った。「いいかい? 宝石を取ることは、やめたくてもやめられないし、実際のところ別に構わない。そして、どのようにして私の手に入ったかを否定するのも無駄なことだ。要するに、これは、あなたの雇い主から盗んだ。もちろん、あなたや気高い騎士たちに被害を加えるつもりはなかったが、あなたのような人にとって、盗賊の言葉など相応しくない理由も理解できる」 「そうね」ライスィフィトラは答え、顔をしかめたが、目は面白がっているようである。「相応しくないわね」 「でも私を殺す前に──」エスラフはパンをもう1切れつかんで言った。「教えてくれ、あなたのように気高い騎士が、1つの仕事で2度報酬を得るのは相応しいことなのか? 私にはなんの名誉もないが、支払いのためにスオイバッドが損害を被り、今はその宝石を手にしている。よって、あなたの莫大な利益はあまり誇れるものではないと思うのだが」 ライスィフィトラはほうきを拾い上げ、エスラフを見た。そして笑い、「盗賊よ、名は?」 「エスラフ」と、盗賊は言った。 「今回は我々に約束されていたものなので、宝石はいただくわ。しかし、あなたは正しい。1つの仕事で2度支払いを受けるべきではないわ。なので──」ほうきを置きながら女戦士は言い、「あなたが我々の雇い主よ。我々に、何をさせますか?」 多くの人々は自分の軍隊にかなりの使い道を見出すであろうが、エスラフはその1人ではなかった。頭の中を捜してみたが、最終的には、後に支払われる貸しにしておくことに決まった。彼女の野蛮性にも関わらず、ライスィフィトラは素朴な女性であり、彼女が指揮するその軍に育てられたことを彼は知った。戦闘と名誉が彼女の知るすべてであった。 エスラフがクラヴェンスワードを離れたとき、彼には軍の後ろ盾があったが、1ゴールドすら持っていなかった。近いうちに何かを盗まなければいけないのは分かっていた。 食べ物を拾い集めようと森の中をさまよっていると、彼は奇妙な懐かしさに襲われた。ここはまさしく子供のころにいた森で、当時も空腹で食べ物を拾っていた。道に出たとき、彼は優しく間抜けで内気な召使い、デゥルスバによって育てられた王国に戻ってきたことに気付いた。 彼はエロルガードにいたのだ。 そこは彼の幼少期よりもさらに絶望の深みへと堕ちていた。彼に食べ物を拒否した店の数々は皆、板が打ち付けられ放棄されていた。そこに残されている人々は皆、うつろで絶望した姿であり、彼らは税金、専制政治、野蛮人の侵略によってやつれきっていて、弱りすぎて逃げることすらできない人々であった。エスラフは、若いころにここから出られた自分がどれだけ幸運だったかを実感した。 しかし、そこには城があり、王者がいる。エスラフはすぐさま公庫に侵入する計画を練った。普段どおりその場を注意深く観察し、警備や衛兵の習慣などを記録した。これには時間がかかったが、結局、警備も衛兵も存在しないことに彼は気付いた。 彼は正面の扉から中に入り、がら空きの廊下を下って公庫へ向かった。そこは、何もなさで満ちていた。1人の男が居る以外は。彼はエスラフと同年代だったが、さらに老けて見えた。 「盗むものは何もない」と、彼は言った。「かつて存在したこともないがな」 王者イノップは年齢以上に老けているが、エスラフ同様の白金髪、そして割れた硝子のような青い眼を持っていた。その上、スオイバッドやライスィフィトラにも似ていた。エスラフは破滅させられたアールトの地主、ラエルヌとは知り合いにこそならなかったが、見た目は似ている。当然のことである。彼らは兄弟なのだから。 「何も持っていないのか?」と、エスラフは優しく聞いた。 「この王国以外は何もない。忌々しいことだが」王者はぼやいた。「私が玉座に就くまでは強力で、富んでいたのだが、私はそのどれも相続しなかった、ただ称号のみ。私の全人生に責任がのし掛かっていたが、それを正しく推し進める資質を持ったこともなかった。生得の権利であるこの荒野を見渡すと嫌になる。もし王国を盗むことが可能であるならば、それを止めたりなどしない」 結局、エスラフは王国を盗むことにした。それからしばらく後、エスラフがイノップとして知られるようになったが、それは身体的な相似から容易な偽装であった。本物のイノップはイレキルヌと名を変え、喜んで彼の領地を離れ、最終的にはアールトのブドウ園で素朴な労働者となった。初めて責任から開放された彼は、心から喜んで新しい人生に取り組み、そして長い年月が彼から溶け出した。 新しいイノップはライスィフィトラへの貸しを回収し、彼女の軍を使ってエロルガード王国に平和を取り戻した。安全になった今、商売や交易がその地に戻り、エスラフは税額を下げ、それらの成長を促した。それを聞き、常に富を失うことを恐れているスオイバッドは、生誕の地へ戻ることを決心した。彼が何年か後に死ぬとき、彼はその強欲から相続人の指名を拒否したため、王国が彼の全財産を受け取った。 本物のイノップからいい評判を聞いたエスラフは、その財産の一部を使ってアールトのブドウ園を購入した。 これによってエロルガードは、王者イッルアフの5人目の子によって以前の繁栄に返り咲いた── エスラフ・エロル、物乞い、盗賊、お粗末な戦士、そして、王者。 物語(歴史小説) 茶2
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帝都の略歴 第2巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻で、歴代皇帝のうち最初の8代皇帝について述べた。栄光あるタイバー・セプティムから、その子の、いとこの、孫の、曾孫であるキンタイラ二世までの系譜である。グレンポイントの獄中でのキンタイラ二世の死を、正当なセプティムの血統の終わりであるとする見方もある。実際のところ、それによって何か重大なものが失われたことは間違ない。 ユリエル三世はタムリエル皇帝を名乗ったばかりでなく、高貴な名であるセプティムを称号とし自らをユリエル・セプティム三世と称した。実際には、彼の名字は父親の家系のマンティアルコである。ユリエルはほどなくして帝位を追われ彼の罪は非難されたが、このセプティムという名を皇帝の称号とする伝統はその後も続くこととなった。 六年の間、レッド・ダイヤモンド戦争(この呼び名は有名な皇帝家の印に由来する)は帝都を分断した。ペラギウス二世の3人の子であるポテマ、セフォラス、マグナス、そして彼らの子らが互いに帝位をめぐって争った。ポテマは当然息子であるユリエル三世を支援し、スカイリムと北モロウウィンドの王を全て味方につけた。しかしセフォラスとマグナスの尽力によりハイ・ロックはポテマを裏切った。ハンマーフェル、サマーセット島、ヴァレンウッド、エルスウェーア、そしてブラック・マーシュについてはそれぞれ地域内で違った思惑があったが、多くの王たちはセフォラスとマグナスの側についた。 第三紀127年、ハンマーフェルにおけるイチダグの戦で、ユリエル三世が捕虜となった。その後、彼を帝都での審判のために護送する途中、群集が彼の居る檻を奪い檻ごと焼き殺した。彼の叔父たちはそのまま帝都に帰り、民衆の支持によってセフォラスがタムリエル皇帝セフォラス一世として即位した。 セフォラスの治世は戦争に明け暮れることとなった。彼は素晴らしく柔和で知的な皇帝であったが、残念ながらその時代のタムリエルが必要としていた偉大な闘将になることはできなかった。彼が度重なる戦いの後とうとうポテマを討ち負かすまで、実に10年の時を要した。ソリチュードの狼の女王と呼ばれたポテマは、137年に彼女の領地が陥落する際に命を落とした。そのわずか3年後、セフォラスもまたこの夜を去った。戦争に明け暮れる中でセフォラスは子供を残せなかったため、弟の、ペラギウス二世の第4子であるマグナスが帝位を継いだ。 皇帝マグナスは即位した際に既に年老いており、さらにレッド・ダイヤモンド戦争で敵対した諸国の王を征伐する任務が、彼の生命力を奪った。伝説ではマグナスの息子で帝位継承者であるペラギウス三世が彼を殺したとされるが実際にはありえないだろう。ペラギウス三世はポテマの死後ソリチュードの王位に就き、ほとんど帝都に戻ることは無かったためである。 狂王ペラギウスとして知られるペラギウス三世は、第三紀145年に即位した。その直後から、彼の奇行は官僚の間で問題になり始めた。彼のふるまいは、教皇や臣下の王たちを当惑させ、時には反感を買い、さらには彼が自殺を試みたために、伝統ある王宮舞踏会が取りやめになるという事件さえあった。最終的には、女帝が摂政となり皇帝に成り代わって政治を行い、当の皇帝は精神病院に入れられたまま、第三紀153年に34歳でこの世を去った。 摂政女帝は夫の死後、タムリエル女帝カタリア一世として即位した。キンタイラの死をセプティムの血統の最後としない者の多くは、このダークエルフの女性の即位こそが、その血統を終わらせたと主張する。一方、彼女を擁護する者は、彼女自身はタイバーの血を引かないものの、彼女とペラギウス三世の子は正当な皇帝の血統であり、皇帝家は途切れてはいないとする。人種差別主義者の主張に反して、彼女の46年間の治世は、タムリエルの歴史の中でも最も祝福された時代の一つであった。居心地の悪い帝都から逃れるため、彼女は帝都全域を歴代の皇帝が一度も足を踏み入れることのなかったような地まで旅した。彼女は前皇帝によって危機にさらされていた各地の王との同盟を修復し、国交を回復した。貴族たちはともかく、タムリエルの民衆は女皇を愛していた。ブラック・マーシュにおける小戦闘の中でのカタリアの死は、陰謀論の好きな歴史家が好んで論じる事件である。例えば、賢者モンタリウスの発表した、とある皇籍を剥奪されたセプティムの傍系の存在と彼らの小戦闘への関与などは、興味深い新事実であるといえよう。 息子キャシンダールが帝位を継いだとき、彼は既に中年であった。彼はエルフの血を半分しか受け継いでいなかったため、ブレトンと同じように歳をとっていたのである。しかも、病弱だったため、領地ウェイレストの統治を異父弟であるユリエルに任せていた。しかしながら、彼は唯一ペラギウスの血を引くタイバーの血統であったので、帝位を継ぐほかなかったのである。大方の予想通り、彼の治世は長くなかった。わずか2年ののち、彼は永遠の眠りについた。 キャシンダールの異父弟、ユリエル・ラリアートは、カタリアと再婚相手のガリベール・ラリアートとの間にできた子(つまり、ペラギウス三世の死後のことである)であったが、皇帝ユリエル四世として帝位につくためウェイレストを離れた。ユリエル四世は、法律上、セプティム家の人であり、キャシンダールがウェイレストの統治を委任する際に、彼を皇帝家に入れていたためである。 しかしながら、元老院にとって、そして民衆にとっても、彼はカタリアの婚外子であった。母親のような力強さを持たなかった彼の43年間の治世中、帝都は暴動と騒乱の温床となった。 ユリエル四世については、第3巻で語ることにする。 歴史・伝記 緑3
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アレッシア・オッタスの ブルーマ案内書 父なるタロスよ、我らをお守りください! 私の名はアレッシア・オッタス。皆様に、ブルーマの全てをお教えしましょう。 ブルーマはニベンの町だと思われがちですが、スカイリムとの境界に近いことと、ジェラール山脈高地の寒く厳しい気候のため、実際はニベンよりもノルドの特色が強い町です。ブルーマは常に寒く、雪に覆われており、市民を凍死から守るために町のいたるところに火鉢が置かれ、絶えず火が焚かれています。ジェラール山脈の森林では木材が豊富に採れるため、ブルーマのあらゆる建物は木で造られており、どんな金持ちもみな暗く薄汚れた木造の小屋のような住居で暮らしています。このような気候の中で暮らすノルド人が、あのように飲んだくれで異教徒の野蛮人になるのも不思議はありません。なぜなら、厳しい気候の中では人間にできることは限られており、寒さをごまかすために前後不覚になるまで酒を飲もうとするものもいれば、身を切るような寒さや容赦ない風からひと時逃れるためだけに罪を犯すものもいるのです。 ブルーマ城もまた隙間だらけで寒く、装飾はぞんざいで、火鉢の煤のために薄汚れています。場内は煙と灰のにおいが充満しています。高い天井は立派ではありますが、そのせいで火が焚かれても城内は一向に暖まりません。石造りの部分も煤と汚れで完全に覆われているので、そこに施された見事な彫刻も今では全く見ることができません。その石造りの部分と全体の大きさをのぞけば、ブルーマ城は庶民の住む貧相な木の小屋と何一つ変わりません。 女伯爵ナリナ・カーヴェインはハートランドのニベン人で、熱心に礼拝に通い、領民にも敬われていますが、交渉の場においては狡猾で無情な一面を見せ、抜け目のないやり口と裏切り行為で評判の人物です。ブルーマの施政は効率的で秩序が守られています。頑固なノルド人の隊長が率いる衛兵たちはよく訓練されており精力的で、そのため泥棒や強盗の心配はありませんが、ノルド人の特徴である酔っぱらいと暴動ばかりはどうしようもありません。 町から城に行くには、町の西にある城門が城の中庭に通じています。商店、宿屋、ギルドは町の北と西の城門の前にある高台の上や、その下の聖堂の北側に集まっています。ブルーマの町の南半分は聖堂を中心として、住宅が町の東と南の内壁に沿って並んでいます。通りは狭く、並木などは植えられていません。この寒さの中では草木を植えても枯れてしまうのです。しかし、建物が小さい町に密集しているため、散策に時間はとられないでしょう。 ブルーマのニベン人たちは聖堂での日曜礼拝を敬虔に行っていますが、下層民は罪深くもノルドの異教の神を信仰し、彼ら独自の迷信や非文明的な儀式をあらためようとしません。 ノルド人の鍛冶屋は名匠が多いので、ブルーマで品質の良い武器や防具を買うことができるのは当然ですが、一方でノルド人は無学で読書をしないため、この町で本を手に入れるのは難しいでしょう。この町の戦士ギルドおよび魔術師ギルドはお粗末で人材も不足しています。誰しも、こんな寒く薄暗い町のギルドに派遣されたいとは思わないのでしょう。ただし、少なくとも魔術師ギルドはきちんと管理され、暖かく保たれています。(それにしても、いったいどのような恐ろしい魔術でその暖かさを生み出し、保っているのでしょう? 想像したくもありません) 皆様に九大神の祝福とご加護がありますように! 地理・旅行 茶2
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バレンジア女王伝 第2巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第1巻では、バレンジア女王の生い立ちから、タイバー・セプティム1世閣下に背いた彼女の父がモロウウィンドを滅ぼしたところまでを紹介してた。皇帝の寛大なはからいにより、幼い彼女は死を免れ、ダークムーアの帝都貴族であるセヴン伯爵夫妻に育てられた。彼女は美しく信心深く成長し、養父母に対する深い感謝を持っていた。ところが、その信じる心をセヴン伯爵の屋敷の厩番をしていた孤児の不良少年に利用され、作り話で騙された彼女は16歳のときにその少年とともにダークムーアを飛び出したのだった。道中でたくさんの危険に襲われながら、彼らはモロウウィンドにほど近いスカイリムの町、リフトンに辿り着いた。 厩番の少年ストロウは、根っからの悪人ではなかった。彼はバレンジアのことを自分勝手にではあったが愛していて、彼女を自分のものにするには嘘をつく以外にないと思っていたのだ。もちろん、バレンジアは彼をただの友達としか見ていなかったが、ストロウ自身はいつか彼女の愛を得ることを信じ続けていた。小さな農場を買って彼女と家庭を持つことを夢見ていたが、彼の少ない稼ぎはその日の食料と宿にすべて消えてしまうのだった。 二人がリフトンに来てまもなく、セリスという名のカジートの悪党が、町の中心地にある帝都指揮官の家を押し入る計画をストロウにもちかけた。セリスが言うには、帝徒に敵対するある人物がその家のもつ情報に大金を払うというのだ。バレンジアはその計画を漏れ聞き、震えあがった。彼女はその場をそっと離れ、外へ飛び出した。帝都への忠誠と仲間への愛情の間で彼女の心は引き裂かれていたのだった。 最後には、帝都への忠誠を選び、彼女は帝都指揮官の家へ行き、彼女の素性を明かした上で友人の計画を伝えたのであった。指揮官は彼女の話に耳を傾け、その勇気を称え、彼女には決して危害が及ばないことを約束した。だが、なんとその人物こそが、あの指揮官シムマチャスであった。彼はバレンジアを探し続け、ある情報を聞きつけてやっとの思いでリフトンに辿り着いたばかりであった。彼はバレンジアを保護し、真実を告げた。売り飛ばされるどころか、18の誕生日に再びモーンホールドの女王になることを知るのであった。その日が来るまで、バレンジアは政治を学び、皇帝に拝謁を賜るために新しい帝都でセプティム家とともに過ごすこととなった。 そして、帝都に迎えられたバレンジアと治世の半ばにあったタイバー・セプティム皇帝は親交を暖めた。タイバーの子供たち、特に長男ペラギウスは彼女を姉のように慕った。吟遊詩人たちは彼女の美しさ、清純さ、知恵、そして教養を称え歌い上げた。 18歳になった日、帝都中の人々が街道に出て故郷へ戻る彼女の送別パレードを見守った。誰もが彼女との別れを惜しんだが、モーンホールド女王としての輝かしい運命がバレンジアを待ち構えていることを皆は知っていた。 歴史・伝記 茶4